Process
私は東京藝術大学工芸科で鋳金を専攻していました。
鋳金と言われてもなかなか想像がつかないと思うので、こちらのページでは卒業制作の様子を掲載しようと思います。
私の考える鋳金の良さは、人間の意思だけでは出せない表情や自然と共存できる技法であることだと思います。金属を溶かしたときの表情の豊かさや金属の自然着色の色幅の多さも魅力です。
私たちの意思とは別に土・重力・金属を溶かしたときの自然が作る形や表情が生まれます。
そこに愛おしさを感じるのです。
鋳造は沢山の鋳型の製作方法があります。
作る形により技法が異なり、今回は石膏を使用した石膏鋳造で製作しました。
紀元前5-6千年ごろ、人類は天然に産出された金銀と出会い、装飾品や木製道具に飾りとして使われました。紀元前3500年頃メソポタミアで鋳造が始まり、日本では弥生時代中期から行われ始めました。現在でも古来から使用されている土での鋳型生成法も行われています。
鋳造は奥が深いんです!
1
原型制作
ワックスで原型を制作します。
今回はワックスで直接、中子に書くことで
手描き感をそのまま形にする事を実現しました。
これは鋳造技法だからこそできる表情だと思います。
2
湯道つけ
湯道(金属の流れる道)を原型につけていきます。
金属の流れ方を想像しながらつけて行きます。
今回は柄が細かかったため、細い湯道で多めにつけました。
3
埋没(石膏鋳造)
肌(番手の高いアンツーカー・石膏・古材)
を丁寧に筆でつけていきます。
筆以外にも、スプレーや手打ちの方法もありますが、柄が細かく気泡が入りやすいため筆で丁寧につけることを選びました。
外型(ガス抜けがいいように番手の低いもの)を塗り込めていきます。
この時使用している番手(粒度)の違う肌用と外型用のアンツーカー・古材は、毎回毎回自分の手でふるいます。
塗り込めしたらバックアップ(型が焼くと脆くなるので石膏を染み込ませた麻布を巻きます)をして完成!
今回は減圧鋳造という特別な技法を使用したので、養生テープを焼成後に巻きました 。
4
焼成
最高温度約600度で約20時間かけて鋳型を電気釜で焼成します。
電気釜以外にも自分で窯を立てて焼成したりもします。4時間ごとに温度の上がり具合を見ながら3日間焼成したりするのでとても大変です。
5
吹き
金属を溶かして流す、鋳造で一番大切な
作業です。
錫は融点が低く、200度程度で溶解します。
他の金属は1500度くらいで溶解するのでもっと大掛かりな溶解を行います。
溶けた金属の表情やその時に発する炎はとても繊細で綺麗です。
6
仕上げ
湯道を切って、バリを丁寧に切削していきます。
錫は柔らかいのでバリが取りやすいのですが、形状も変わりやすのでとても丁寧に形を整えていきます。
柔らかく傷がつきやすいので、鏡面にし難いですが艶を出したいところは、1つ1つ手作業で仕上げ棒(硬い金属の棒)で擦って磨いて行きます。
触った時、口の部分が痛くないよう意識しました。
7
完成
素材と対話しながら製作することが求められる工芸ですが、だからこその良さがあると感じています。
障害や健常者、高齢者関係なく素材が生み出す温かみや、人が作る温かみをより多くの人に届けていきたいと思います。
今回は工芸とインクルーシブの架け橋の象徴になればと思い作成しました。